HSRP 基礎編:(2) HSRP のバーチャル・ルーター

HSRP の目的は、ゲートウェイの切り替わりに自律的な対応ができない機器へ、冗長化されたゲートウェイを提供することです。
ゲートウェイの切り替わりは、可能な限り端末機器に意識させることなく行われることが望まれます。このことを、端末から見て透過的 (Transparent)であると呼びます。
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ゲートウェイの切り替わりを透過的に行うには

ゲートウェイ役のルーターが切り替わってもIP アドレスが変わらなければ、端末は切り替わりを意識することなく通信を継続できます。が、前回お話したように、同じIP アドレスを持つ機器が二台以上同時にネットワーク上に存在することは御法度です。
予備のルーターがデフォルト・ゲートウェイの役割を始めるのは(=デフォルト・ゲートウェイのIP アドレスを自分のアドレスとして通信し始めるのは)、メインのルーターに問題が発生してからです。
予備のルーターは、メインのルーターに問題が発生、つまり、メインのルーターがそのIP アドレスを設定したインターフェイスで通信できなくなったと判断すると、そのIP アドレスを自分のインターフェイスに割り当て、以後はデフォルト・ゲートウェイの役割を肩代わりします。

予備のルーターが肩代わりするIP アドレス(=デフォルト・ゲートウェイ)は、メインのルーターのインターフェイスに設定されたIP アドレスでも、肩代わり用(ルーターが共有するIP アドレス)に用意した専用のIP アドレスでも、同じ結果が得られます。
HSRP は後者、共有用のIP アドレスを使います。VRRP の場合は、RFC の定義ではメインのルーターに設定されたIP アドレスを、予備のルーターが肩代わりするようになっていますが、HSRP と同じように共有用のIP アドレスを設定できる製品もあります。


バーチャル・ルーター

HSRP の動作を説明する際、二台のルーターの間に特別なルーターを配置している図を良く見ます。そのルーターは、ほかのルーターよりも薄めの色や破線を使ったりして、他のルーターとは異なることを表現しています。

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この特別なルーターは、実際に存在するハードウェアではなく、端末機器からの視点を表現したものです。
HSRP の目的は、デフォルト・ゲートウェイの役割交替を端末に意識させないことです。つまり、端末から見てデフォルト・ゲートウェイは常に一台。端末が認識するのは、ハードウェアのルーターではなく、どちらかのルーターが演じている仮想のルーター(共有用のIP アドレスを持つバーチャル・ルーター)です。
端末は、バーチャル・ルーターのIP アドレスをデフォルト・ゲートウェイとして設定するか、DHCP サーバーから配布してもらえば、バーチャル・ルーター役をしているルーターが存在している限り通信を継続することができます。

HSRP の概要を説明するのによくつかわれるバーチャル・ルーターの図ですが、真ん中に置かれたバーチャル・ルーターのアイコンは場所をとるため、動作を細かく見ていくには邪魔です。
「HSRP を究める」では、ルーター上の添え字で、そのルーターがバーチャル・ルーター役をしていることを表現します。

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Router-A が正常に動作している間は、バーチャル・ルーター (Router-X)宛のパケットはRouter-A により処理されます。
Router-A に異常が発生すると、Router-B がバーチャル・ルーター (Router-X)の役割を肩代わりして、デフォルト・ゲートウェイ宛のパケットを処理し続けられます。
端末から見ると、切り替わりが発生してもゲートウェイはRouter-X なので、切り替わりを意識することなく通信を継続できるわけです。

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Standby Group

バーチャル・ルーター (Router-X)の役割を担うルーターの集まりを、Standby Group(スタンバイ・グループ)と呼びます。

Standby Group に参加しているルーターのうち、バーチャル・ルーターの役をしているルーターの「状態 (ステート:State)」をActive と呼びます。Active となっているルーターは「Active Router(アクティブ・ルーター)」です。

プライオリティ(優先順位)を設定することで、どのルーターが優先的にActive Router となるか指定できます。もっともプライオリティ値が大きいルーターがActive Router となります。プライオリティのデフォルト値は100です。
プライオリティが同じ場合は、IP アドレスが大きい方がActive Routerとなります。つまり、デフォルト値のまま使えば、IP アドレスの比較でActive Router が決まります。

バーチャル・ルーターの役をしていない予備のルーターのステートは、Standby です。Standby となっているルーターは「Standby Router(スタンバイ・ルーター)」と呼びます。

三台以上のルーターがStandby Group に参加している場合、三台目以降はActive でもStandby でもない「その他大勢」な扱いとなります。

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